ウィーン経済経営大学のMaximilian Kaiser氏とフランクフルト金融経営大学のChristian Schulze氏は2026年10月付の査読前論文で、ChatGPT広告の効果を分析した。対象は1,898のオンラインストアの60週間(2025年6月〜2026年8月)のデータで、広告が未導入のEUを比較対象とした。広告出稿サイトの分析は387サイト、売上まで追える分析は102サイトである。
米国の流入では、ChatGPT広告の1訪問あたり売上は0.89ドルで、Google検索広告の2.45ドルより64%低かった。コンバージョン率は0.37%と1.17%である。両方に出稿する87社のうち97%でChatGPT広告の1訪問あたり売上が下回り、84%は1万8,726セッションの間に販売が一度もなかった。全570件の購入は残る14サイトに集中している。
著者は、検索広告と同じ投資利回りを前提にするとChatGPT広告の1クリックの価値は約0.26ドルで、公開情報で最大のアカウントが支払った1.72ドルを大きく下回ると試算した。広告開始後13週間のChatGPTからの自然流入は5.9%減と推定されたが、95%区間はマイナス12.6%からプラス1.2%でゼロを含む。米国の利用増の速さを調整すると7.2〜8.4%減となる。流入した訪問者のコンバージョン率に明確な変化はなかった。
日本と韓国は2026年6月に広告が始まった同一グループとして扱われ、自然流入は9週間でプラス13.6%だが、統計的にゼロと区別できない。売上と転換率の比較は米国流入のものである。広告主は自ら出稿を選んでおり、著者も広告の分析は因果ではなく記述的な証拠だとしている。データはGrips Intelligenceが無償提供し、Kaiser氏は同社の科学顧問である。
なぜ重要か
ChatGPT広告の成果を、広告主をまたいで比較した数少ない公開データである。Search Engine Journalによれば、OpenAIのFAQは広告主・業種をまたぐベンチマークはまだないと説明している。一方でOpenAIが8月に紹介したEC広告主の事例はROAS 3倍で、指標も対象も異なる。どちらか一方で判断できる段階ではない。
日本の広告主にとっての示唆は、検索広告と同じ予算の考え方を持ち込まないことである。論文の比較はラストクリックによる計測で、認知や後日の購入への効果は捉えていない。したがって「効果がない」とは言えないが、直接の売上を目的に出稿するなら、自社の入札額を自社の1訪問あたり売上と照らして検証する必要がある。日本単独の広告成果は示されていない。
出典:Kaiser & Schulze「Can Advertising Fund Free AI? Evidence from ChatGPT's International Advertising Rollout」(2026年10月、査読前) 関連報道:Search Engine Journal(2026年11月2日)
博報堂DYホールディングスが100%出資するAds for Humanityは2026年10月29日、World IDを手がける米Tools for Humanity、韓国のLGエレクトロニクスと業務提携したと発表した。World IDで人間と確認された人にのみ広告を配信する「人間認証型広告」を、3社の共同事業として進める。
同日から、Hakuhodo DY ONEの「AudienceOne」との連携により、LINEヤフー、Meta、Xなどへの配信を始めた。広告商品「Human-Verified Ad」は2026年6月に販売を開始している。LGは配信の記録を改ざんできない形で残すブロックチェーン技術を提供し、配信システムを共同で開発する。
検証事例として、ローチケ[旅行]の2026年9月18日〜10月17日の配信を挙げた。同じ期間・同じクリエイティブで従来の運用と比べ、クリック率が約3倍、クリック単価が約61%低下したという。配信面や母数は示していない。
新指標「Human Rate」も提唱した。広告のターゲットのうち、実在の人間と確認された割合を示す。発表は、国内のアドフラウド被害額を2025年に約1,592億円(Spider Labs調査)と引用している。認証済みの利用者数、配信可能なリーチ、料金は記載がない。
なぜ重要か
AIエージェントやボットの閲覧が増えるなかで、「人間に届いた」こと自体を売り物にする広告が、国内の主要な配信先で買えるようになった。Human Rateのような指標が広がれば、表示回数やクリック数の質を問う材料になる。
ただし、効果の数字は1事例の発表値で、第三者の検証は示されていない。配信対象がWorld IDの認証者に限られるため、リーチと費用の水準が実用性を左右する。検討する企業は、認証者の規模と自社ターゲットとの重なり、および従来の運用との比較条件を確認しておきたい。
出典:Ads for Humanity「Tools for Humanity・LGエレクトロニクスと業務提携」PR TIMES(2026年10月29日) 関連報道:宣伝会議 AdverTimes(2026年10月29日)
英国の競争・市場庁(CMA)は、Googleに課した検索のパブリッシャー向け行為要件への対応期限を2026年12月3日としている。要件には、AI OverviewsやAI Modeなど検索のAI機能について、表示回数、クリック、クリック率を機能横断で集計して示すこと、流入の質を評価できる参照データを提供することが含まれる。
同じ要件は、英国のパブリッシャーがAI学習と、検索内外の生成AI機能での回答生成への利用を拒否できる設定も求めている。検索内の回答生成についてはディレクトリ単位とページ単位で提供し、ページ単位にはさらに3か月の猶予がある。拒否を理由に検索順位を下げることは禁じられる。
Search Engine Journalによれば、GoogleのGary Illyes氏は、AI検索のデータを増やすことに「非常に関心がある」としつつ、Search Consoleへの追加について発表できることはないと述べた。現在のSearch Consoleの生成AIレポートが示すのはAI OverviewsとAI Modeの表示回数で、2026年8月31日に全世界のサイトに展開された。同誌によれば、AI機能のクリックは通常の検索パフォーマンスレポートに含まれ、切り分けられない。
CMAは提供先の例としてSearch Consoleを挙げているが、他の方法も認めている。CMAの要約は英国の制度として説明しており、英国外で同じデータが提供されるかは示されていない。
なぜ重要か
日本企業はいま、AI OverviewsやAI Modeからのクリックをサイト単位で切り出せない。AI検索が流入を増やしたのか減らしたのかを、Googleのデータだけでは判断しにくい状態にある。規制当局が開示項目と期限を具体的に定めたことで、この状態が変わる可能性が出てきた。
ただし、日本のサイトに同じデータが届くかは分からない。提供されるのが機能横断の集計である点にも注意が要る。データが出るまでの間は、ランディングページ別の流入と順位、生成AIレポートの表示回数を並べて記録し、比較できる基準値を残しておくとよい。
出典:Google Search Console ヘルプ「生成AIレポート」 関連報道:Search Engine Journal(2026年11月2日)
Today's Insight
AI時代の広告と検索は、「何が起きたかを誰が証明できるか」の競争に入った
今日の3本は、題材こそ違うが、同じ問いを扱っている。AIが介在する接点で、広告や流入の価値を誰がどのように証明するのか、という問いである。
ChatGPT広告の論文は、米国の流入で1訪問あたり売上が検索広告を64%下回ると示した。しかしOpenAIが紹介した事例はROAS 3倍であり、指標が異なる。Ads for Humanityは、クリック率約3倍という結果と、人間に届いた割合を示すHuman Rateを打ち出したが、母数は明らかにしていない。Googleについては、AI検索のクリックを切り分けて見る手段がまだなく、CMAが12月3日を期限に開示を求めている。
三者に共通するのは、価値の数字を出すのがおおむね媒体か販売者の側であり、買い手が同じ条件で検証しにくいことである。論文のように複数の広告主をまたぐデータは例外的で、それも出稿を自ら選んだ広告主という対象の偏りと、購入が少数のサイトに集中するという限界を抱える。
AI広告とAI検索の評価で最も不足しているのは、新しい施策ではなく、買い手が自ら検証できるデータである。
日本企業の実務としては、三つの視点を勧めたい。第一に、ChatGPT広告は他社の事例ではなく、自社の入札額と1訪問あたり売上で判断すること。第二に、人間認証型広告のような新しい指標を採用する場合は、同条件の比較と母数の開示を販売側に求めること。第三に、Googleのデータが増える前に、ページ別の流入、順位、AI機能の表示回数の基準値を残しておくことである。
規制が開示を動かすとしても、それが日本に届く時期は分からない。待つ間に積み上げた自社の記録だけが、後から出てくるデータを読み解く基準になる。
計測の主導権は、データの提供を待つ企業ではなく、比較の基準を先に持っている企業の側に残る。